教育哲学会第51回大会報告

 研究発表内容は多岐に及んでいるが、ドイツ・北欧語圏に関する研究報告は13件、英米語圏に関する報告は11件、フランス語圏とイタリア語圏の報告は各1件、邦語圏の報告は3件、中世の教育哲学に関する報告が1件、課題型研究報告が7件で、合計37件の報告が行われた。そのうち、個別の哲学者や思想家の教育哲学・理論に関する研究報告は25件であった。また、最近における研究発表の動向として、具体的な教育実践活動や教育臨床活動に基づいた理論的哲学的考察が数件ほどあったことにも注目したい。

 大会プログラムを印刷する段階からわかっていたのは、一般研究発表者が増加したことであった。学会事務局からは、一般研究発表の申し込みは6月の段階で40件であるとの報告を受けた。昨年度の大会と比べると、3割程度発表数が増えることになった。実際には、新型インフルエンザやその他の理由で研究発表ができなかった報告が3件あったため、最終的には37件の研究発表となった。37件の報告のうち、大学院生が22名で約6割を占めていた。


 教育哲学会第52回大会が、2009年10月17日(土)と18日(日)にわたって、名古屋大学東山キャンパス教養教育院で開催された。初日は昼前には小雨が降るやや不安定な天気であったが、参加者も順調に増えて一日目で200名を超えることができた。懇親会も、最終的には一般会員、学生会員、臨時会員を含めて90数名に参加していただいた。二日間の参加者は、合計232名であった。地方で開催された大会ではあったが、地理的には名古屋は日本の真ん中に位置するという利点を享受することができたといえるかもしれない。各地からご参加いただいた会員の方々に感謝したい。


 

第52回大会準備委員長 早川 操 



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 一日目の一般研究発表に関して、第2室は50名程度の参加者を収容できる規模の部屋を用意したが、予想以上の参加者がこの部屋に集中したため、隣の部屋から椅子を運び入れることになった。しかし、それでも間に合わず、一部の会員には立ち見で聞いていただくことになってしまった。大会準備校は、計画段階から部屋の配置を慎重に検討しなければならないことを痛感させられた。

 第一日目の研究討議は、開催校の企画によるものであり、「公共哲学と教育哲学の接点を求めて」というテーマで増渕幸男会員、生澤繁樹会員、宮寺晃夫会員から提案があった。前半の司会は早川操会員が行い、後半は野平慎二会員が質疑応答を手際よく整理・展開した。増渕会員は、わが国の教育改革とりわけ高等教育改革における大学の社会的使命にかかわる議論において公共的理性が果たすべき役割について提案を行った。生澤会員は、自己形成が共同体における対話のネットワークの中で行われているというコミュニタリア二ズムの立場から、自己解釈的な存在が共同体における対話的関係をつうじて共通善の構築に関与することの意義について提案を行った。宮寺会員は、リベラリズムの観点からストレンジャーどうしが支えあう教育のあり方を考えることによって、理性の公共的な使用による公共性の哲学構築の可能性について提案した。質疑応答では、国境を越えた公共性の可能性、互恵性をめぐる問題、教育と政治の関係などについて熱心に意見が交わされた。

 二日目の課題研究では、「労働と教育」について森田尚人会員と加藤守通会員から課題についての趣旨説明があり、引き続いて村松憲治会員、小玉重夫会員、池田全之会員から報告があり、その後質疑応答が行われた。村松会員からは、戦後における労働と教育をめぐる実践の歴史と最近の若者の労働観に関する変遷について報告があった。小玉会員からは、労働についての冷戦期的思考からの脱却を検討するために、アレントによるマルクスの読み換えに注目して報告があった。池田会員からは、労働的人間形成論について1800年前後のドイツ初期ロマン派の自我論に注目して報告が行われた。その後、わが国の戦後教育哲学論議における労働と教育をめぐる取り組みなどについての質疑応答と意見交換が行われた。

 ラウンドテーブルは、森田尚人会員企画による「戦後日本の教育哲学:二つの『回想録』を読む」、林泰成会員企画の「教員養成課程における教育哲学の位置づけに関する再検討」、早川操会員企画による「デューイとの対話−デューイ的思索の過去・現在・未来−」、藤原直子会員企画による「Women’s Studiesをめぐる差異のポリティクス」の4件が実施された。昨年度から継続の二つのラウンドテーブルには今年度も多くの会員が参加し、予定した時間を超えて話し合いが持たれたラウンドテーブルもあり、秋の夕暮れのなか熱心な議論が繰り広げられた。
 多くの会員による参加・協力のおかげで無事に大会を終えることができたことに感謝するとともに、来年度の大会企画に期待したい。