第2日  10月17日(日)

課題研究・学会理事会企画(教育文化ホール大集会室)


14:00-16:30  
価値多様化社会における「規範」の問題
                              

                   司会  森川 直(岡山大学)
                       坂越 正樹広島大学)
                  提案者  土戸 敏彦(九州大学)
                       松下 良平(金沢大学)
                       榑松かほる(桜美林大学)

                 指定討論者   福田 弘(筑波大学)

                        林 泰成(上越教育大学)



             


【要旨】

 最近、青少年犯罪の増加や幼児虐待などが、大きな社会問題になっている。こうした問題の背景には、現代社会の変化を特徴づけている価値(観)の多様化・多元化があるように思われる。もちろん、価値の多様化・相対化は、頭から否定すべくもないことは言うまでもない。多様な価値を認めることは、各人の自由を拡大し、自己実現の機会が多くなるとみなされるからである。しかし一方では、社会や集団における共通の理想や価値・規範の合意がなかなか得られず、個人のレベルでも価値や規範のよりどころを失い、価値判断への確信の無さや他人の意見への依存が顕著になる。その結果、価値の混迷や無政府状態をもたらしているところに、今日の社会の大きな問題がある。 

最近のおとな社会に深く進行している無責任や道徳的頽廃、子ども社会にも根強い「自分さえよければ」という考え方や「他人に迷惑をかけなければ、なにをしてもよい」とか「楽しんで生きたい」といった生き方のうちに、自己中心の価値観が潜んでいるように思われる。こうした状況において、とくに子どもの教育に携わるものにとって、共通の価値観や規範の確立は、無関心ではいられない問題である。教育は、ほんらい価値判断や規範を抜きにしては成り立たない営みだからである。われわれは、あらためて価値多様化の本質を見きわめ、各自の価値判断の規準や規範の問題について根本的に問い直す必要があるのではないか。

そこで、この課題研究では、現代社会における価値多様化の問題を、「規範」(norm)の問題に焦点をあてて検討したい。あわせて、「規範」の問題に関わり、道徳教育の現状に対して、教育哲学からの応答を試みたい。この課題は、多様な諸価値の統合ないし合意形成をめざす道徳教育のあり方、道徳・規範を教えることの意味、さらには大人と子どもの教育関係を問い直すことにもなると考える。この今日的な課題を通して、教育哲学のレーゾン・デートルを問う議論にまで深めることができればと願っている。





教育哲学会第47回大会プログラム