教育哲学会第51回大会報告

 

 教育哲学会第51回大会は,2008年10月24日(土),25日(日)の両日,慶應義塾大学三田キャンパスを会場として開催された。当日は清秋の季節とは申せ、両日とも曇天でいまにも泣き出しそうな天気であったが、それにもかかわらず参加者は一般会員,臨時会員を含めて250余名を数え,懇親会にも100名を越える皆様にご参加いただくことができた。今次大会は、昨年の学会創立50周年記念大会を引き継ぎ、次の50年への一歩となる大会として,私たち慶應義塾大学のスタッフ、とりわけ院生や学部学生の献身的な働きによる準備を経て、会員の皆様のご参加をお待ちしていた。結果としては、一般研究発表は28件の申込みで例年より若干少なめで,それに応じて第1日は4室、第2日は3室の発表会場を設定した。内訳は,報告内容別からして英米語圈研究が7件,ドイツ・北欧語圈11件,フランス語圈5件,邦語圏が3件、それに課題型研究が2件であった。報告題目からは,従来型の思想家研究に加えて、「道徳性の発達」や「住まうこと」の意義を巡る問題、また「言語や技術知」を問題とするもの、そして教育における「公共性」や「シチズンシップ」を問題とするものなど、近年の研究動向ないしは関心を特徴付けるような報告が行われたように思われる。

 二つのシンポジウムのうち初日の開催校企画研究討議「『教育問題』としての文化」は,生田久美子会員、松下良平会員,松浦良充会員による報告を受けて、坂越正樹会員、舟山俊明会員の司会で質疑応答が展開された。反権威主義教育や批判的教育学からカルチュアルスタディーズやポストモダンまでの現代思潮が、近代教育批判として教育学研究に多大な影響を与えてきた状況下で、日常的で保守主義的な臭いのする「文化」や「文化伝達」といった概念、問題を改めて問おうとする課題設定ではあったが、質疑応答の様子からみて参加者の多くの関心が寄せられていたのではないかと推察する。

 一方、二日目の理事会企画課題研究「教育研究のなかの教育哲学−その位置とアイデンティティを問う−」は,会員外から藤田英典(教育社会学)、無藤 隆(教育心理学)の二人と、会員より田中毎実の三氏によりそれぞれ報告をいただき、今井康雄、西村拓生の両氏の司会によって討議が進められた。昨年の51回大会においての講演を受けて、この度は教育哲学会の活動を学会外から注視してきた論者による「教育哲学へ寄せる関心と期待」についての報告をお願いし、それを私たち会員が自己の学問のアイデンティティ問題としていかに引き受けるのかを問うことが本シンポジウムの課題であった。各報告に関しての指定討論者の山名 淳会員、岡部美香会員による簡にして要を得た、かつアクチュアルな問題設定によって議論の深化拡充が図られたと思われる。いずれのシンポジウムも多くの参加者を得て盛会の内に終了したが、またそこで提出された課題は私たち会員すべてにとって今もって残されたままであり、この問題に対する会員諸氏による取り組みの深化が望まれていると言って良いであろう。

 ラウンドテーブルは,齋藤智志、舟山俊明会員企画「教育の究極的関心とは何か?」、林 泰成会員企画「教員養成課程における教育哲学の位置づけに関する再検討(1)」、丸山恭司会員企画「教育哲学関連授業をどうするか」、小笠原道雄、森田尚人、田中毎実、矢野智司会員企画「教育学史の再検討」それに山本正身会員企画「近世教育思想史の方法と課題」の5件、昨年よりも若干の増加が見られた。大会日程の最終企画であって、また時間的な余裕も余りなく慌ただしい中ではあったが、各分科会とも多数の参加があった。察するにおそらくこのスタイルの研究報告会は定着してきたものと考えられる。

 以上、無事大会が進められたことに対して、ご協力いただいた会員の皆様に心から御礼申し上げたいと思う。

 

                                第51回大会準備委員長 舟山俊明