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Philosophy of Education Society of Japan

事務局:〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学
大学院教育学研究科基礎教育学コース田中智志研究室
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組織・規程ORGANIZATION & REGULATIONS

代表理事就任のご挨拶

教育哲学会・代表理事
                        森田 尚人(中央大学)
 戦後四半世紀くらいのあいだ、大学に進学した日本の若者は在学中に何らかの政治闘争に巻き込まれ、そうした運動に積極的に参加したか否かにかかわらず、その体験は彼らの自己形成に拭いがたい刻印を残していたように思います。それは親・家族からの自立という若者にとっても避けがたい問題を、平和や民主主義といった歴史的課題に向きあう政治闘争を媒介にして模索するという体験だったともいえます。高校1年のときに安保闘争に出会った私は、大学院生の最初の一年が終わるころから、大学闘争の毎日がはじまりました。時のめぐりあわせが悪かったのか、本来なら一度ですむはずの体験が繰り返されることになったわけです。40年近くに及ぶ教員生活の終わりが近づくにつれて、大学闘争の頃のことがしきりに思い出されるようになりました。

 全共闘と民青のはざまで消え入りそうな小グループをつくって活動していたわれわれは、「大学解体」や「アカデミズム解体」を叫ぶ全共闘系の学生たちを傍目でみながら、教育学の課題はむしろアカデミックな学問として再出発しなければならないことなのだ、と自分たちに言い聞かせていました。しかしながら、学問と政治、教育と運動の区別もないような学部の雰囲気に反発しながらも、研究者として最初のトレーニングを受けた場の影響は本人が考える以上に深刻なものがあったように思います。当時の私にとって、教育哲学会はもっとも縁遠い存在でした。院生時代に一度だけ、教育哲学会の大会(1974年広島)に参加したことがありますが、誰ひとりとも会話を交わす機会のないままに帰路についたのでした。当時の私にとって、教育学を学ぶことは、戦前と戦後を分かつ断絶、五五年体制下の政治的対立、そしてつねにそこにある世代間の断層などによって分断された区画のひとつに、無理やり押し込まれるような感じでした。

 15年後にふらりと参加した京都での学会は、ことのほか楽しい、そしてその後の私の研究生活を決定づけるような経験となりました。個人発表やシンポジウムで十分に知的な準備運動をすませたあと、懇親会で多くの方たちと知り合い、初めての出会いなのにもう何年来の知己であるかのようにバカ話をして盛り上がりました。その時のことを振り返るたびに、もっとも伝統的で、保守的なイメージをの強い教育哲学会が、もっとも早くに五五年体制から脱却して、若い人たちに自由な言論空間を提供していたのではないか、しかも、このことは歴史的に検証できることではないかという感慨が浮かびます。なぜそうしたことが可能だったのか。おそらく教育哲学会には純粋な知的関心に支えられた、学問的探求を励ますような雰囲気があったからだと思います。つまり、アカデミックな研究に拘っていたからではないかと言いたい誘惑に駆られます。個人的にいえば、少し大げさですが、大学闘争を通じて教育学に抱いた絶望感が、希望に変わった瞬間でした。

 人びとが学会に対して持つ感情は、それこそ一人ひとりの人生の多様さに照応するかのように異なるものでしょう。学会はそれに対応する英語が含意するように、社交の場でもあります。書かれた文章と知的な会話があいまって学会の活性化は達成されるのだと確信しています。日本の教育学のおかれた状況は、上述のような歴史的に形成された亀裂が克服されないままに、さらに多様化、拡散化に向かう動きを加速させているようにみえます。ひとつの学会内部で多様な関心が交錯する状況はむしろ生産的な論争を生んで、多彩な研究活動を実現するのに欠かせない要因として歓迎されるべきでしょう。しかし、教育学関連だけで100をゆうに超える学会が存在するといわれる現状は、同質化した集団がそれぞれ学会を名乗っているのではないかと勘繰りたくなります。こうした状況は、教育学がひとつのアカデミックなディシプリンとして生き残れるかどうかの正念場に、われわれが直面していることを物語っているのではないでしょうか。これからの教育哲学研究は、教育学の一部門にとどまることなく、もっと視野を広げて、教育学という学問そのものはいかにして成り立ちうるのか、そのためにわれわれは何をしなければならないかという問いから離れることができないと考えます。

 これからの3年間、事務局長を引き受けてくださった松浦良充(慶應義塾大学)さんとともに、教育哲学会の運営に責任をもつことになりました。困ったときのつねとして、今回もまた松浦さんにお願いしました。還暦をとうに過ぎて、大学退職を目前に控えた自分がその任にあたることを考えるとき、アナクロニズムというコトバが念頭から離れません。ただ次の世代へのショートリリーフとして、学生運動を経験した最後の世代として語り残しておきたいことが少しあります。そのための登板だと自分に言い聞かせて、教育哲学会が元気になるお手伝いができればと思っています。

(「教育哲学会 会報」第14号、2011年4月1日)

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